ここで時間を戻して、話は前日―――7月6日の午後に遡る。

 

授業が終ると、陽菜は最近では珍しく仕事を理由に部活を休み、事務所に顔を出していた。
確かにこの時期は四半期の締めも近づいていて、その気になれば仕事はいくらでもあるのだが・・・
この日の陽菜はなんとなくソワソワと落ち着かない様子で、あまり仕事も手についていない様子だった。
やがて・・・

「では、そろそろ会合に行ってくるわい」
「はい、暑いですから、お気を付けて」
「はっは! まだまだ暑さなんぞには負けんわ―――!」
「行ってらっしゃ〜い!」

予定通りに、中之井が所用で出掛けてから間もなく・・・

「あの、優さん、ちょっとよろしいでしょうか・・・」
「んぁ・・・む? あ、な、なんだね陽菜ちゃん!?」

お目付け役の中之井がいなくなって早くも午睡モードだった優に、
二人分のコーヒーを手にした陽菜が声をかける。

「実は、優さんに相談がありまして・・・」
「相談? ふっふっふ、まかせにゃさ〜い! 優さんにかかればどんな悩みも一撃必殺!
 さ〜あ、泥舟に乗ったつもりで悩みごとカモ〜ン!」

乗り気なのか寝ているのかかなり怪しげな発言に今更ながらに気後れしかけるが、
ここで“やっぱりいいです”とも言い出せず、陽菜はそのまま相談を持ち掛けることにする。

―――そこで踏み止まってさえいれば、運命は変わっていたであろうに・・・

「実は、明日の社長の誕生日のことなのですが・・・」

ギラリ、と優の眼鏡が妖しく輝く。

「ほうほう! 我聞くんがどうしたって!?」

急にいきいきとしてきた優にちょっとだけ違和感と、それ以上の期待感を得て、陽菜は先を続ける。

「はい、折角ですから何かプレゼントを用意しようかと思うのですが、
 優さんは社長が欲しがっている物とか、ご存知ないかな、と思いまして・・・」
「成程・・・誕生日にプレゼント・・・これはいけるかも!」
「は、はあ・・・いける、ですか・・・?」
「あ、あははは〜! こっちの話、こっちの話!」

改めて“相談を持ち掛ける相手を間違えただろうか・・・”的な不安な表情を浮かべる陽菜だったが、
今更逃してくれる優ではない。

「そうだ! こういうことならもっと便りになるアドバイザーがいたわね〜!
 今から呼ぶから、ちょいと待っててね〜♪」
「え、あの、優さん?」

当然のように依頼人無視で受話器に手を伸ばし、ぴっ、と短縮ボタンを一押し。
呼び出し音が2回と半分ほど鳴ったところで・・・

『はい、工具楽ですが』

受話器から漏れ聞こえる声は、果歩のものであった。

「もしもし、果歩ちゃん? わたし〜、優ねえさんだよ〜」
『あれ優さん、どうしたんですか?』
「実はね〜」

確かに我聞のことについて聞くなら、同じ家に住んでいる果歩はうってつけの相手と言える。
“それを即座に思い付いて、電話までかけて下さるなんて・・・”と、
優に向けて心の中で感謝と、ちょっと怪しんだ事を謝罪していた陽菜には、
微妙に顔を背けている優が言うまでもなく満面の“悪そうな笑み”を浮かべている事など、知る由も無かった。

「・・・うん、うん、じゃあよろしくっ!
 このチャンスに一気に本丸を攻略よ―――!」

相変わらず陽菜には意味不明な単語の多い会話ではあったが、
ある意味それもいつも通りのことなので今更突っ込もうともしない。
ともかく優は受話器を置くと、

「というわけで果歩ちゃんも来てくれるって〜」
「はい! わざわざありがとうございます! では今のうちにお茶の用意を―――」

ガンガンガンガンガンガンガンガンガラララ―――っ!

「お、お待たせしましたあっ!」
「あ、い、いらっしゃい・・・お早いお着きで・・・」

優が受話器を置いてから、果たして何秒経過したろうか・・・
・・・と陽菜が本気で考えてしまう程の速さでスチールの階段を踏み鳴らし、果歩が事務所に駆け込んでくる。
当然ながら汗だくでぜいぜい息を切らしている彼女の為に、
陽菜は用意しかけていたティーカップを片付けるとグラスに冷えた麦茶を注ぐのであった。

その後、とりあえず果歩が落ち着くまではそれぞれにのんびりとお茶を飲み、適当な雑談に興じていたが―――

「・・・して陽菜さん」
「は、はい」

やはりこの機会を絶対に逃すまいと全力疾走してきた果歩である。
呼吸が整って頭がクリアになったところで、早速本題を切り出す。

「お兄ちゃんに誕生日のプレゼントを贈って頂ける、とのことですが」
「あ、でも、そんな高価なものとかはムリですし、何か社長のお役に立つ物があれば、と思いまして・・・」

ふむふむ、と頷く果歩の表情は真剣そのもので、陽菜は向かい合っているだけで威圧感すら感じてしまう。

「ちなみに・・・陽菜さんは何か、こんなものがいいかな、とか考えていたものはありますか?」
「ええ、そうですね・・・とりあえず、新しい作業着とか・・・」
「・・・甘い」

遠慮がちに口にした陽菜の意見を、果歩の容赦ない一言が切り捨てる。

「あ、甘い、ですか・・・」
「確かに、作業着はお兄ちゃんが日常的に使うモノですし、今使ってるものもちょっと綻んできています。
 その点を見抜いているあたり・・・流石は陽菜さんだと思います!」
「あ、ありがとうございます・・・」
「だがしかしっ!」

果歩のいやに真剣な表情と気迫に、陽菜は既に圧倒されている。

「ですがプレゼントに真心を込めるなら、
 やはり・・・相手の一番欲しがっているものを選ぶのが王道!
 “とりあえず”とかで妥協したプレゼントなど喜ばれはしないのですっ!」
「な・・・そ、そうなんですか・・・」

がーん、と音が聞こえそうなほどに衝撃を受ける陽菜。
はっきり言って極論もいいところだが、すっかり果歩に気圧されてそこを突っ込むだけの余裕は無い。

「ですが果歩さん、一番欲しがっているもの、といわれましても・・・予算もありますし・・・」
「まぁそうですね〜、では陽菜さん」
「は、はい?」
「もしも・・・予算的に全く問題が無くて、
 陽菜さんさえその気になれば簡単に贈れる物をお兄ちゃんが欲しがっている、としたらどうします?」
「そんなものがあるのですか!? もしあるのでしたら、それを是非!」

思わず身体を乗り出すようにして答える陽菜に、
果歩と優は互いに目配せしてニヤリと笑みを浮かべる。

「・・・あの、何か・・・」
「いや〜? ただ陽菜ちゃん、我聞くんのこと本当に想っているんだなぁって、ね〜♪」
「ですよね〜! お兄ちゃんったら、幸せ者なんだから〜!」
「え、あ、あの、いえ、そんな! わ、私はあくまで秘書として・・・日頃お世話になってますから・・・」

もし、本当に“それだけ”なら、プレゼントの内容をわざわざ他人に相談したりする陽菜ではないことは、
果歩にも優にも(多大な先入観があるにせよ)よく分かっている。
だが、彼女にせよ我聞にせよ、互いに頑なにそれを表に出そうとしないのがGHKとしてはじれったい限りなのだ。
故に果歩と優は降って湧いたこのチャンスを最大限に利用して、一気にケリをつけてしまおうという魂胆なので、
その為の策は・・・

「うーん、それだと少し厳しいかな〜」
「え、厳しい・・・ですか」
「はい、お兄ちゃん、実は凄く欲しがっているものがあるんですが、
 それをお兄ちゃんに上げられるかどうかは、陽菜さん次第なんです」
「私、次第・・・ですか、あの、一体何を・・・」
「それはですね・・・」

じいっ・・・と見つめられて、陽菜はややたじろぎつつもしっかりと果歩の目を見つめ返す。
その視線に果歩は改めて手応えを感じ、
最後に改めてちらりと優に視線を送り彼女の表情を確かめると、
身体をずい、と乗り出して、じっと陽菜を見つめて・・・

「それはずばり・・・陽菜さん、あなた自身です」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」

言いたいことはこれで全て、と言わんばかりにずずっと麦茶をすする果歩と、
完全に様子見モードの優。
そしてまずは呆然として、それから徐々に顔が赤らんでくる陽菜。
しばらくは誰も何も言わず、いやに緊張を孕んだ静寂が漂っていた、が・・・

「か、かかか果歩さんっ!」

その沈黙に耐えきれず、陽菜が大声を上げる。

「なんですか?」
「な、なんですかじゃありませんっ! プレゼントがわ、わたっ、私自身・・・って!
 い、一体どういう意味なんですかっ!」

怒っているのと恥ずかしいのとで真っ赤になった陽菜の叫ぶような声を、
果歩はあくまでクールにやり過ごす。

「どうも何も、文字通りそのまんまですよ?」
「で、ですからそれは、具体的に・・・」
「身も心も我聞くんに捧げるってことじゃないかにゃ〜?」
「そ・・・んな・・・・・・な、何を言ってるんですかっ! もう・・・そういう冗談はやめてください!」

武文が去り際に残していった爆弾発言以来、折を見ては“我聞×陽菜ネタ”で二人をチクチクとからかって、
その度に陽菜や我聞を赤面させてきた二人であったが、それにしても今回の陽菜の照れ具合はただ事ではなく、
“どういう意味か”等と聞きつつも、陽菜がしっかりと想像できてしまっているのはもはや疑う余地も無い。
そこを突いて、更に彼女を悶えさせるのも楽しそうだ、と優は思うのだが、
残念ながらGHKの目的はそこには無い。

「陽菜さん、一つ・・・聞いていいですか?」
「え、ええと・・・なんでしょう?」

妙に冷静な調子で年下の果歩に話し掛けられると、陽菜は一人取り乱している自分が別の意味で恥ずかしくなって、
せめて表面上だけでも落ち着いた振りをしてコーヒーなど啜ってみるが・・・

「陽菜さんは、お兄ちゃんのこと好きですか?」
「・・・げほごほごほっ!?」

あんまりなくらいに直球の問いかけに、コーヒーは意に反して気管へと導かれ、
陽菜らしからぬ無様さで咳き込んでしまう。

「・・・はぁ、はぁ・・・な、何をいきなりおっしゃるんですかっ!」

いろんな意味で照れ隠しに思わず大声を出してしまうが、
対して果歩の表情は真剣そのもの。
実は笑いを堪えてプルプル震えているのだが、完全に動揺しきっている陽菜がそんなことに気付けるハズも無く、
落ち着いている(ように見える)果歩の様子に気圧されてしまい、健気にも真面目な返答をひねり出し・・・

「そ、その・・・き、嫌いではありませんが・・・でも、好きって言いましても、
 人物として、であって、その、ええと・・・恋愛とか、そういう意味では、まだ、べ、別に・・・」

しどろもどろになりながら、なんとか返答する。
その予想通りの答えに、果歩は内心でシナリオ通りの展開にニヤリとしながらも、
あくまで表情は真剣さを保ったまま・・・この策の核心へと陽菜を引きずり込むための、
切り札となる台詞を口にする。

「お兄ちゃんは、陽菜さんのこと・・・好きですよ?」
「・・・・・・・・・え・・・」

ごにょごにょと返答を続けていた陽菜は、その果歩の一言で再び絶句する。

「もちろん、秘書としてとか、友人として、というのもありますが・・・
 間違いなく、お兄ちゃんは陽菜さんのことを異性として、女性として好きになっています」
「・・・・・・・・・」

陽菜は唖然としたまま、何も言えずただただ果歩の言葉を聞くのみ。
それも、端から見たら人の声が耳に入っているかすら怪しいくらいに、真っ赤になって、硬直しながら。

「私、聞いちゃったんです・・・お兄ちゃんの寝言」
「ね・・・ねご・・・と?」
「はい・・・“國生さん、國生さん”って、何度も繰り返してるんです、ここ最近、いつも・・・」
「う・・・ぁ・・・ぅ・・・」

それはつまり、夢に見るほどに、我聞が自分のことを想っている、ということで・・・
そう思うと、ただでさえ真っ赤な陽菜の頬が、更に赤く染まってゆく。
・・・ちなみに、この話自体がそもそも、というか当然というか―――完全に果歩の捏造なのだが、
陽菜は既にそんなことを見抜けるような精神状態ではない。

「でも、お兄ちゃんはあの性格ですから・・・
 お兄ちゃんが社長で陽菜さんが秘書である限り、
 そのことを陽菜さんには伝えようとしないと思うんです」

陽菜の茹った頭でも、それはなんとなく想像できる。
確かに“俺は社長だから”、“社長が社員に手を出すなんて”等と、いかにも我聞が言いそうな台詞である。

「そんな訳で陽菜さん! ここはひとつ、陽菜さんからお兄ちゃんに一発、びしっと!」
「え、ええと・・・それは、つまり・・・」
「サクっとコクっちゃってくださいっ!」
「おことわりしますっ!」

ここぞとばかりに身を乗り出してきた果歩に対し、
流石に陽菜もカウンター気味に身を乗り出して即答する。

「・・・陽菜さん、お兄ちゃんのこと・・・嫌いなんですか?」
「そ、そういう訳じゃありません!
 た、ただ、その、す、好きとか、嫌いとか、そういう以前に、その・・・そういうことは、やっぱり・・・
 ひ、人に言われたからするものじゃ、ないですし・・・
 ちゃんと、もっと時間をかけて、自分で考えてから・・・」

真っ赤な顔でごにょごにょと、本来の彼女らしからぬ歯切れの悪さで言い逃れするように理由を述べる陽菜だが、
GHKの二悪人がここまで感情を露わにした陽菜をみすみす逃す訳が無い。

「時間・・・ねぇ・・・陽菜ちゃん、そんな時間があると、思ってるの?」
「ど・・・どういう、ことですか?」
「確かに時間をかけても、陽菜ちゃんは心変わりしないかもしれないけど、
 我聞くんは・・・果たしてどうかにゃ〜?」
「え・・・・・・」
「我聞くんのことを意識している女の子は、はるるんだけじゃない、ってことさ〜♪」

さも楽しそうに話す優とは逆に、陽菜の真っ赤な顔はひくっと引き攣り少しだけ色を失う。

「あ・・・い、いえ、べ、べつに! 私は、そんな社長のことを、意識なんて・・・」
「あ、そうだったっけ、あはは〜♪
 まぁでも一応最後まで言っておくと、何せ我聞くんは意中のはるるんに告白できなくて悶々としてるからね〜、
 そんな状態が長く続いて、そのときに別の女の子から執拗にアタックされちゃったら、
 どう転ぶかわからないにゃ〜♪ っと、そういうコ・ト!」
「そ、それは・・・で・・・ですが、それは・・・あ、あくまで・・・社長の意思の問題ですから・・・」

真っ赤だった顔色はすっかり醒めて、ぼそぼそと喋る口調は羞恥からではなく、
明らかに不安に苛まれている陽菜の内面を浮き彫りにしている。

「ん〜、そうだね〜、あくまで我聞くんと、それと陽菜ちゃんの意思の問題だからね、
 まぁあとは陽菜ちゃんの気持ち次第だけど、もし―――」

と、その時。

がらららっ。

「お疲れ様でーす! お、果歩も来てるのか」
「おじゃましまーすっ! あ、ほんとだ、こんなとこで何してんのよ、カホ」
「む! あんたこそなんでお兄ちゃんと一緒なのよ!」

いつの間にか時刻は午後5時に迫っていて、部活を切り上げた我聞が出社してきたのだが、
何故か桃子も一緒にやってきたのだ。
・・・GHKとしては、嬉しい誤算と言える訳だが。

「べつに〜? たまたまそこで一緒になっただけよ、ね、ガモン?」
「ああ、丁度そこで会ってな。
 國生さん、部活休まなきゃならないくらい仕事あったみたいだし、
 何か桃子に手伝ってもらえることがあればと思ったんだが、どうだろう?」
「お〜! 流石お兄ちゃん、陽菜さんのことにはよく気が回るわね〜♪」
「な、べ、別に俺は社長として國生さんの仕事が大変だなと思ってだな! ・・・って、國生さん?」

自分を名指しされているにも関わらず、陽菜の反応が無い。
―――何せ、自分のことを夜な夜な夢に見ている(と吹き込まれただけなのだが)我聞が現れ、
そして・・・

“我聞くんのことを意識している女の子は、はるるんだけじゃない”

という言葉と、今・・・彼の横にいる、酷く彼に懐いた少女。
そういう状況が一度に押し寄せて、陽菜は完全に混乱してほとんどフリーズ状態だったのだ。
だが、そんな事情など知る由もなく、空気を読むことが致命的に苦手な朴念仁は当然ながら・・・

「なぁ國生さん、大丈夫か?」
「へ・・・あ、ひゃ!? しゃ、社長!?」
「うぉ!?」

声をかけられたな、と気付いたときには顔を覗き込まれていて、
陽菜は思わず奇声を上げて椅子を倒しながら後ずさってしまう。

「だ、大丈夫か國生さん・・・体調とか、悪いんなら休んだ方が・・・」
「い、いいいいいえ! だいじょうぶです! へいきですっ!
 あ、と、桃子さんのお仕事ですね、はい、大丈夫です、探しますから!」
「あ、ああ・・・」

あまりにあからさまに様子がおかしいのだが、
ここまででは無いにせよ最近は時々こういうことがあり、
こういう時にあまり突っ込むとひっくり返されてしまうことは経験則として我聞も身をもって知っているので、
これ以上の口出しはしないのであった。

「で、では・・・」

倒してしまった椅子を直し、お茶をしていたテーブルから自分のデスクへ戻ろうとした陽菜に向けて、

「あくまで陽菜ちゃんの気持ち次第だけど・・・」

先程の続きなのか、優が陽菜にだけ聞こえるような小声で呟く。

「もし、我聞くんを他の子に取られたくない、すぐにでも自分のモノにしたいって思うなら、
 今夜私の部屋に来るといいよ〜? お姉さんが我聞くんを虜にする方法、教えてあ・げ・る♪」
「・・・・・・」

やや俯き加減で何も言わずデスクに戻る陽菜を、優はニヤニヤと笑みを浮かべて見送るのだった。

「ガモーン!」
「おう、なんだ桃子・・・」

「ガモン、ちょっとこれねー」
「ん―――?」

桃子の高い、よく通る声が何度も我聞のことを呼ぶ。
それは彼女が工具楽屋に手伝いに、もしくは遊びに来ているときには別段珍しいことではない。
桃子はなんだかんだで果歩や他の我聞の弟妹達とも仲良くやっているし、
我聞としては新しい妹くらいの感じで接しているんだとばかり思っていたから、
陽菜もそんな気持ちで彼女と接していた。

「ガーモーンっ! これちょっと!」
「なんだ、おかしいか?」

だから、桃子も我聞のことをきっと兄のように慕っているのだろう、と思っていた。
いや、本当にそのとおりなのかもしれない。
優の言葉さえ真に受けなければ、あんな先入観さえ無ければ、そう見る方が普通だろう、と陽菜も思う。
なのに・・・

「ねぇガモン、ちょっとー」
「あー、今行く!」


「・・・もー、相変わらず桃子は口を開けば“ガモンガモン”なんだから・・・」
「まぁ、今に始まったことじゃないしね〜
 ・・・それよりも果歩ちゃん、気付いてるかね?」

そんな我聞と桃子とも、そして陽菜とも離れたところで、
GHKの二悪人は相変わらず頭を付き合わせたまま小声で会話を続けている。
状況が状況だけに陽菜からも仕事しろ、等と言われず、野放しの優はやりたい放題なのだ。

「うふふふふ・・・勿論ですよ優さん!
 あの、いつもいつもいつも! ジェラシーのジェの字も感じさせなかったのほほーんな陽菜さんが!」
「うんうんうん! 纏ってるねぇ・・・ジェラシーオーラを纏いまくりだねぇ!」

と、その時。
がたんっ! っと。
唐突に・・・その場に居合わせた皆がびくっとするくらいに大きな音を立てて、陽菜が席を立つ。

「・・・ゆ、優さん・・・もしかして、今の聞こえちゃったでしょうか!?」
「い、いや、いくらはるるんでも、流石にこの小声でこの距離なら聞こえないと思うけど・・・!」
「で、でもこっち来てますよ! 負のオーラ纏ったままで!」
「い、いやとにかく、ここは知らない素振で!」

何を喋っているかは聞き取れなくとも、あからさまに怪しげな密談をしているのは丸わかりなのはともかくとして、
無害な雑談を装う二人に向かい、陽菜はつかつかと歩み寄り・・・

「・・・優さん」
「は、はい!? な、なにかにゃー!?」
「今夜・・・お部屋にお伺いさせて頂きますね」

それだけ、立ち止まることなくぼそりと小声で言うと、陽菜は二人の脇を抜けてそのまま洗面所へと入っていった。

「優さん・・・これは・・・!」
「ふ、ふふふふふ・・・陽菜ちゃん・・・目覚めた様ね・・・ならば!
 この優姉さんの全力をもって! オトコをモノにするノウハウを叩き込んであげようじゃないか、ふははははっ!」

この瞬間、陽菜はGHKの網に完全に絡め取られたのであった。







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